もぞもぞ泳ぐ

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【読書メモ】オーデュポンの祈り

伊坂幸太郎さんの「オーデュポンの祈り」を読みました。全456ページの長編小説。 伊坂さんのデビュー作で、出版年度は2000年。私が買ったのも結構前で、多分5、6年前だと思います。積読消化の第一弾。

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中古で買ったのでカバーがぼろぼろ

ストーリー

話の大筋としては、コンビニ強盗に失敗して警察に追われた主人公が、ずっと昔から鎖国状態になっている島に流れ着いて、そこで起きる殺人事件を解決する話。主人公の「伊藤」がソフトウェア会社に勤めるプログラマーだったり、舞台が仙台だったりして、私と結構似たような境遇だったので気になった、というのが本を買ったきっかけでした。

感想

読み終わった感想としては、かなりすっきりとしているというか、お洒落な小説だったなあ、という印象。殺人事件は起きますがミステリー小説というほどトリックや謎が凝っているという訳ではなく、シンプルにストーリーの行き着く先が気になる面白さで読ませてくる小説です。今時の作品だと登場人物のキャラ立ちが強かったり、トリックが凝っていたり、派手な舞台装置があったりするものが多いと思うのですが、それらと比べると「オーデュポンの祈り」は話がかなり地味です(たぶん映画化とかアニメ化とかしても画面が映えないと思う)。それでも面白かったです。めちゃくちゃ面白いって感じではないけれど、すっきりとした面白さというか、品がいい面白さというか。

よかった所

この作品のキーパーソンとして、「未来が見えるカカシ」が登場するのですが、ストーリー序盤で将来の予言を残して居なくなってしまうわけです。その予言が終盤でどうやって回収されるのか?という部分が、殺人事件の動機やラストシーンとも実は絡んできていて、最後に全体像が分かったときになるほどなー、と腑に落ちます。その感覚が心地よかった。

あとはタイトルの「オーデュポンの祈り」の由来が、ちゃんと史実に基づいていたのが勉強になりました。オーデュポンとは実在した鳥類研究家、兼画家のアメリカ人で、かなり綺麗な鳥の絵を多く残しています。小説の中では、実際に19世紀後半にアメリカで起きた「リョコウバト」の絶滅(パトスキーの虐殺)に関連して、オーデュポンの話が登場してきて、「カカシ」から見た人間の自然に対する残虐性や、浅はかさを嘆くような部分があります。

確かに、もしも100年生きたカカシみたいな、経済社会と切り離された知的な存在が居たらって考えたら、人間の活動なんて概して自分勝手で、見ていてうんざりするものなんじゃないかなと。客観的な視点を得るのって大切で、とても難しい。そういう教訓じみた押し付けは作中にはないけれど、「大事な事柄こそ控えめに、あからさまに話さない」って姿勢は、生き方としてとても良いなと思います(ビジネスとかだとそれじゃ駄目なんですけど)。